外国語学習者が、自分の母語を外国語として学ぶ学習者とペアになり、互いの母語と学習言語が交換状況になる環境において交流を行うことにより、互いの言語スキルだけでなく、文化交流も行う学習活動を「タンデム言語学習」と呼びます。ヨーロッパでは移民を対象として、古くから対面でも行われてきた学習形態ですが、ICTの発達により、遠く離れた場所にいる人々の間でも、生きた言語や文化を母語話者から直接学ぶ機会として、email, text chat, SNS postsなどを利用した非同期型のコミュニケーションやvideo chatを用いた同期型コミュニケーションを体験する機会が注目されてきています。電子機器(electronic tools)を使うことによるタンデム学習を「イータンデム(eTandem)」と呼ぶようになりました。
ビデオチャットを使って、英語を話す機会を体験するという定義を聞くと、英語母語話者の講師を相手に、ビデオチャットで英会話を学ぶ「オンライン英会話」を思い浮かべる方も多いかもしれません。「オンライン英会話」ではあくまで教師と生徒の関係で会話を行うのに対して、「イータンデム」では、同年代の学習者と対等な立場で、互いに関心を持ち合っている言語や文化について、自由に話題を選んで交流する機会を提供できます。
イータンデムの特徴として、互恵性、自律性、真正性があるとされています。学習言語と母語が交換状況になる外国語学習者同士がペアになることにより、互いの言語を使う機会が得られたり、互いに知っている母文化の情報を提供することにより、交流相手に相互に恩恵を与えあえる関係が成立します(互恵性)。教師と生徒の関係ではなく、同年代の学習者同士が出会うことにより、相互に協力し合って、話題選びや互いの言語の使用割合についても、話し合いながら自ら決めていくことになります(自律性)。また、同年代の学習者同士が自ら関心を持つ話題について交流することにより、真の意味で自らが触れたり知ったりしたい情報や言語に触れ、学習言語を使用する社会でまさに母語話者に活用されている情報や言語を享受できることにもなります(真正性)。
日本の学校英語教育において、国際交流活動を考える際には、英語母語話者との交流を想定するケースが多いかと思います。その際には、英語母語話者が交流相手を務めてくれる際に、交流相手にはどのような恩恵がもたらされるのかを必ず念頭に置くべきだと考えます。その点、イータンデムでは、交流相手として日本語学習者を探すことにより、交流相手にとっても、自分たちの学んでいる日本語を母語として話す同年代の児童・生徒・学生と交流できるため、楽しみが多くあると捉えられます。これが国際交流活動を計画する際に最も重視すべき互恵性の観点だと考えられます。
学校教育の一環として、日本人英語学習者のためにイータンデムによる国際交流活動に取り組む際には、ビデオチャット当日は、教員からの介入を極力避け、児童・生徒・学生たちの自律性を担保できるように気をつける必要があります。教員から学習言語を話すように強制されたり、話題を指定されて、本来参加者が知りたい、話したいと思う参加者にとって真正性のある話題について話し合えない状況に追いやってしまうと、楽しいはずの国際交流も義務感のあるものとなってしまいます。